企業における所与つまり与えられた条件とは、自社から調達できるリソースに関する内容と、自社が勝ち残るために利用してきた業界の独自のルールや慣例・考え方なども含みます。
これらの情報を整理整頓して優先順位をつけておきます。これも前の項の自身と自社のスタンスを問い直すことと同様、プロジェクトにおける判断を素早く、かつブレを最小にするために必要なプロセスです。
この情報の整序は自社の考え方がどのように生まれて既成概念化したのか、どのように進化してきたのか確認するプロセスを含み、既成概念という思い込みを見直すきっかけを作る意味で有効です。
企業戦略の整序
自社が持つ戦略としてまず企業戦略があります。
企業戦略には経営ビジョンとして経営理念とドメインが明確になっていると思います。経営理念は経営の基本的な考え方や哲学を示していて頻繁に変更するようなモノではないためルーティンで順調に仕事が回っている場合は希薄になってしまっていることが多いでしょう。
企業戦略はこれら経営ビジョンのもと、経営資源をどのドメインに配分していくかを決めていく行為です。経営資源が潤沢で市場拡大が顕著な時期では経営資源を多方面に配分するドメインの多角化が行われましたが、資本や労働力が活発に国境を超え経済的な結びつきが強くなったグローバル経済下では、経営資源を取捨選択し強い事業を更に強くするため集中的に投資して市場での存在感を高める戦略が多くなっています。
これらの企業戦略としての全社戦略の下に事業クラスター別に事業戦略があります。もう一方で機能毎に戦略をまとめた機能別戦略があります。機能別戦略はデザイン戦略、マーケティング戦略、営業戦略、開発戦略、技術戦略、生産戦略、知財戦略、財務戦略、人事戦略など様々に細分化されます。
これら企業戦略の中でデザインディレクタが確認しておきたい内容は多岐に渡りますが、理念・使命・ビジョンといった企業の根本を構成している思考部分が特に大事です。
企業戦略とスローガン
企業のスローガンは様々です。日本の主要な家電メーカのものを並べて見ると以下の通りです。(以下は各社HPより引用)
- Panasonic「A Better Life, A Better World」
- NEC「orchestrating a brighter world」
- 日立製作所「Inspire the Next」
- 三菱電機「Changes for the Better」
- 東芝「Resilience for Growth」
- ソニー「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」
- シャープ「Be Original」
これらはすべて未来に対しての企業の思いを、理念や使命またはビジョンとして明文化したものです。どこも言い方に工夫が見られますが言いたいことは「明るい未来を作る」です。
しかし各社明るい未来を作るためのドメインや方法が少しずつ異なっています。このため各企業でこのようなスローガンを作るに至った理念・使命・ビジョンといった企業の根本を構成している思考部分から、必要不可欠な概念を洗い出し、構造化し優先順位をつけていきましょう。
さらに企業では明文化はされていないものの、長いあいだに培われた風土のようなモノがあります。この詳細は前項のスタンスの整序に記したとおり、企業と経営者そしてそこで働くビジネスパーソン、製品、社会、この三者が、どのような関係性にあり、互いの相互作用がどのように働くかということに立ち返り考える必要があります。
企業戦略と個人の信条とのズレ
これらの検討の中で、この項に示した企業戦略を実現するために具現化を行っていく部分と、ビジネスパーソン個人の信条にズレを感じる部分が発生してしまうこともあると思います。
このズレは周囲の関係者は当たり前と思っていることでも、個人の心情的には許したくない。という矛盾をはらんでしまうこともあるかもしれません。
例えば、石油由来の材料はSDGsの観点から個人的には使いたくないし企業理念としても使わないようにしたい。しかしプロジェクトに与えられた条件では他の材料を使うと条件を逸脱してしてしまうため使わざると得ない。といった場合です。
これらのズレが発生した際に熟考して「今は仕方ないがプロジェクト毎に少しずつでも理想に近づけよう」のように自身の信条と折り合いをつけておくことは大切です。
私自身はこの様なズレを、売上拡大が至上命題のプロジェクトにおいて、作りたくないと思った製品(ファッドな製品)を開発したことで何度か経験しました。「なんでこんな製品を作るんだ」と憤慨しましたが、工場のラインを維持するためだからと自分を言い聞かせ愚痴をこぼしながら仕事をこなしました。今になって考えれば「もっと良い代案」を提案すれば良かったのですが、思考停止して諦めてしまった気概不足だったようにも思います・・・本来は全てのプロジェクトは社会に貢献できる企画であるべきです。しかし自分の体調を崩すまで悩むのは良くないので、この当たりの折り合いは考えておいた方が安全です。
製品の存在意義や価値を考えるのは製品コンセプトの作り方の項で詳細に考えていきたいと思います。
ではまた!
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