「ーバウハウス・システムによるーデザイン教育入門」とは
大学図書館でおもしろい本を見つけました。「デザイン教育方法の基礎的な提案」が書かれている書で、1964年に出版された「ーバウハウス・システムによるーデザイン教育入門:武井勝雄著、造形社刊」です。もう絶版ですが都立中央図書館や大学図書館(CiNii Books:こちらなどで)蔵書しているところがいくつかあります。また古書店にもたまに在庫することがあり、私は第3版を購入しました。
この本はデザイン教育の入門書として記された本で、義務教育の美術教育が、情操教育や創造性の育成という側面からデザイン教育へ踏み込むことを期待している旨が記されています。
デザインテンション(シュパンヌンク)とは
このデザイン教育のなかで現在のデザインではあまり語られない「シュパンヌンク」という言葉を使っています。これはドイツ語のSpennungで、「緊張」「引っ張る」という意味で、英語では「テンション」に相当します。デザインの根幹をなす概念を表す言葉として紹介されています。
シュパンヌンク(テンション)とは形や形と形の間で生じているように感じる見えない力とその方向性というベクトルを指しています。
この見えないベクトル(力と方向性)が発生する認知がゲシュタルト(くわしくはこちら)で、デザインが作り出す視線やイメージの大きさを誘導します。
このシュパンヌンクには、視覚表現であるデザインのみならず、他の五感、例えば聴覚を使った音楽、味覚を刺激する食事、嗅覚、触覚と人が持つ感覚器が刺激されるところには必ずシュパンヌンクは存在するとしています。
シュパンヌンクにはヒエラルキがあり、シンメトリで静的な表現はシュパンヌンクが低く、アンシンメトリで自由形状が用いられる動的な表現はシュパンヌンクが高いという表現になります。
このシュパンヌンクという言葉。現在は一部のデザインを教えている先生が使っているようですが、一緒に働いている美大やデザイン学科を卒業した人たちに聞くと、ほとんど知られていない言葉のようです。「シュパンヌンク知ってる?」と聞くと「なんですか?」と言われます。
そのため私は「シュパンヌンク」を用いてデザインを説明しようとする時は、なぜドイツ語の「シュパンヌンク」という語を使わずに、同じ意味の英語「テンション(Tension)」という用語を用いて話をします。
理由はなぜ「シュパンヌンク」というドイツ語を使うのかという説明に、バウハウスの説明からすることになり、時間を取られて本題のデザインの議論に入れないからです。
次に2Dのデザインについてテンションの例題を示します。
図1は直線が鋭角に折れて山形を作っています。左の図は頂点の角度が鋭角で縦方向、上方に引かれるテンションを強く感じます。対して右の図は鈍角になっていて左右に引かれるテンションを強く感じると思います。
図2では版面の中心にあり、中央へ視線が誘導される求心力を感じます。
図3は版面の中央を2等分する直線が引かれています。この場合は線で2分された面が拮抗しているためテンションはあまり感じません。対して図4は面を2分する直線が右に偏っているため、図に示したように力が発生しているように感じます。
しかし図4でも狭い範囲を塗った図5では力感に変化が起きて、図4のとは逆の力を感じます。
このようにテンションは形状だけでも発生しますし、カラーとの相互関係で大きく変化します。
このテンションを上手く使うことは余白をデザインするということと同義です。
五感での知覚にはすべてテンションがある。
このテンションには、視覚表現であるデザインのみならず、他の五感、例えば聴覚を使った音楽、味覚を刺激する食事、嗅覚、触覚と人が持つ感覚器が刺激されるところには必ずシテンションは存在するとしています。
下表は様々なブランドの代表的な製品のテンションを表しています。同じカテゴリーの製品を持つブランドで、右はテンションが高く、左が低いという代表的な例です。
デザインの要素と原理とは
これら五感を「計画的かつ恣意的に刺激することを計画し準備する」ことをデザインと呼び、刺激される対象として「要素 Element」 と刺激する方法を類型化し「原理 Principle」があるとします。
デザイン要素とデザイン原理については別のログにまとめました(くわしくはこちら)のでご覧ください。
デザインを議論するときはテンションとして使ってみよう
このデザインのテンションは。まさしくデザイナーでないビジネスパーソンがデザインを考える際に非常に便利な概念となることばです。デザインを依頼するとき、デザインについて議論するとき、出来上がったデザインにコメントするとき、このデザインのテンションをデザインの要素とデザインの原理と併せて使うと、説明が非常にしやすくなりますので、是非活用してみてください。
ではまた!
- 図1、図2は「構成学のデザイントレーニング|三井秀樹・三井直樹著」より引用
- 図3から図5は「バウハウス・システムによるーデザイン教育入門|武井勝雄著」より引用
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