デザイナへの情報インプットの続きとして、デザインテンションの指定について説明します。
製品コンセプトは「作り手側からユーザへ提案する突出させた概念とその優先順位である」と記しました。前の項ではこの製品コンセプトに必要な情報として以下の3項を記しました。
- A)CIやBIから生まれたデザインテンション
- B)製品のポジショニング
- C)ユーザーに強く認知して欲しい概念と優先順位
これら3項のうちこの項では A)デザインテンションについて説明します。
CIやBIから生まれたデザイン・テンション
デザイン・テンションとはバウハウスでの教育に使われていたシュパンヌンクを英語に訳したものです。これを日本語にすると「張り」となります。英語の「Tension」は物理的・心理的・芸術性に対する緊張感や均衡、拮抗という意味合いが含まれますので、ここでは英語の「Tension:テンション」を使って説明します。
バウハウスのデザイン教育のなかで「テンション」はデザインの根幹をなす概念を表す表現で、視覚表現であるデザインだけでなく、人が持つ他の五感も感覚器が刺激されるところには必ずテンションは存在し、この五感を「計画的かつ恣意的に刺激することを計画し準備する」ことをデザインと呼び、刺激される「要素 Element」 と刺激する「原理 Principle」により「テンション」の高低が生まれると定義しています。
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テンション高低の例
一般的に高級品は長く使うことを考慮してテンションは低く抑えられ、コモデティは繰り返し消費するなかで市場で過酷なコンペチタとの競争から目立つ必要に迫られテンションは高く設定されがちです。
しかし例外として「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「シャネル(CHANEL)」「ディオール(DIOR)」などのヨーロッパのラグジュアリーブランドは、シーズン毎のコレクションで、クリエイティブディレクタを全面に押し出し、テンションを高く振り切ったデコラティブな製品を設定したり、極端に低くミニマルに設定することでトレンド感を演出し、マーケティング上のアイコンとして活用しています。
これらのブランドは世界のトレンドを作るイニシアチブを自らが持っていることをマーケットにアピールしながら、実際に利益を生み出す売れ筋の商品は、テンションを程よく抑え飽きずに長く使えそうな製品を提供して、実益を上げる戦略をとっています。
具体的には
- テンションが高いものは目立つ。低いものは目立たない。
- テンションの高いものは動きがありダイナミックで、低いもの静的でスタティックである。
- テンションの高いものは子供っぽく見える。低いものは伝統的で大人っぽい。
- テンションの高いものはシンメトリ。低いものはアンシンメトリ。
- デコラティブ(加飾)なものはテンションが高く、ミニマルのものは低い。
- カラーはハイコントラストで目立つものはテンションが高く、コントラストは低く周囲に馴染んでいるものは低い。
- 質感は高いものは凹凸が激しかったりツヤ感が高いものはテンションが高く、凹凸が弱かったりツヤ感が低いものは低い。
- テンションの高いものは面構成が複雑で光の陰影が強く入り、低いものは面構成がシンプルで光の陰影は弱い。
テンションの指定
テンションは製品のデザインを批評する際にまず最初に決めておくべき概念で、CIやBIから生まれ育まれてきたアイデンティティそのものであることが多いです。
周知のブランドで見てみると以下の表のようになります。
このテンションは「ブランドらしさ」を表現する根幹を示す概念ですから、既存のブランドであれば、テンションを今までと同等にしたいのか、それともイメージチェンジを狙ってテンションを変えるのかを検討しましょう。
新規ブランドであれば、テンションをどの程度に設定するかを検討しデザイナへインプットしましょう。
その際にテンションの指示の仕方は言語では難しいので同一業界でのブランドのテンションの位置を相対的に表現するか、他業界で同じくらいのテンションにしたいブランドを提示する方法が良いでしょう。
さらに同一業界や他業界を含めてテンション・マップを作り、そこにプロジェクトで作りたいブランドのテンションをマッピングすると、さらにデザイナと深いコミュニケーションが取れ、認識の齟齬がなくなり効果的でしょう。このマップの作り方は別の機会に説明します。
ではまた!
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