(C3)洗練度評価
デザインが一定水準以上に洗練されているかを評価します。
洗練とは
洗練とは広辞苑で「物を洗ったりねったりして仕上げるように、文章や人格などをねりきたえて優雅・高尚にすること。みがきをかけて、あかぬけしたものにすること。(―された文章)(趣味を―する)」とあります。
この中で優雅とは「やさしくみやびやかなこと。上品でみやびやかなこと。(―な生活)であり、高尚とは、「学問・言行などの程度が高く、上品なこと。(―な趣味)」とあり、垢抜けるとは「(垢がぬけてさっぱりとしている意から)気がきいている。素人臭くない。洒脱しゃだつである。いきである。ー以下略ー」とあります。
洒脱とは「俗気を脱してさっぱりとしていること。あかぬけしていてこだわりのないこと。(―な人柄)(軽妙―)」垢抜けるとトートロジーになっています。
いき(粋)とは「①気持や身なりのさっぱりとあかぬけしていて、しかも色気をもっていること。ー以下略ー②人情の表裏に通じ、特に遊里・遊興に関して精通していること。ー以下略ー↔野暮やぼ)。
広辞苑の解説と、デザインの定義「ユーザーを想像して製品をかたち作る諸要素全ての最適解」を勘案すると、「洗練する」とは対象物に対して以下概念を的確に実施することとなります。
- 美しいこと。
- 上品なこと。
- 理を使いこなしていること。
- 気が利いていること。
- 人情の表裏に通じていること。
- 素人臭さを抜くこと
- 欲から脱すること
- さっぱりとしていること
- 色気があること
製品デザインですから稚拙であってはいけませんので、これらから「素人臭さを抜くこと」を省き、アイデンティティやユーザビリティへ依拠している率が高い「上品」「理を使いこなしていること」「人情の表裏に通じていること」「欲から脱する」「さっぱりしている」「色気がある」を外し、デザインディレクションのキーワードで「洗練する」を考えると以下の様になると考えます。
デザインの洗練度とは
▾ 上記よりデザインの洗練度とは「美しい」ことに加えて気が利いていることが必要です。
- 美しいこと
- 気が利いていること。
「美しい」はデザインにとって最も大切な概念の一つです。この「美しい」はデザインクオリティ評価だけでなく、アイデンティティ評価にも、ユーザビリティ評価にも含まれます。
アイデンティティ評価では美しいことに加えて「美しくかつ迫力がある」など、特徴があることが求められます。美しくかつ特徴の方向性とその度合いなどが評価規準になります。またユーザビリティ評価でも美しいインターフェースやシーケンスから分かりやすい認知性・操作性・快適性が生み出されます。
しかしデザインする対象のデザイン要素(フォルム・カラー・質感)が多数で複雑に絡みあっている場合は、デザイナの目が届かず現場の裁量で「今まで通りで良いだろう」という考えから製品コンセプトを逸脱して製品が設計され製造されることが多々あります。
デザインディレクタはこのように複雑に絡んだデザイン要素に対しても、デザインにオリジナリティ性(くわしくはこちら)があるか。あらゆる箇所が全てが同一のデザインポリシー(くわしくはこちら)で貫かれているか。といった評価と併せて、プロジェクトの製品コンセプトでの企画意図を活かしながら美しさを持ち、かつ気が効いた製品に仕上げるようデザインに磨きをかけることが必要です。
製品の隅々までデザインを磨き洗練させ、全ての部分のデザインにユーザが満足感を感じてもらうことが出来れば、製品の満足度にレバレッジがかかり高次元に昇華されることで、総体のゲシュタルトは巨視化されユーザに深い満足度を提供します。
このようにデザインを磨き上げる行為の中からも「美」は生み出されると考えられますから、本ログではこの洗練度評価の中に「美しい」を含めて考えていくことにしました。
アートや作陶など、偶然生まれる結果を意図的に期待して行う制作行為は、偶然を制御して取り込もうとする行いであり、洗練度を上げるための技術として捉えられます。アートとデザインの差異については別途記述したいと思います。
「美」という概念
「美しい」も分かっているようで広い概念なので、評価する範囲を考えてみます。
「美しい」を広辞苑でみると、「うつくし・い【美しい/▽愛しい】〔形〕[文]うつく・し(シク)(肉親への愛から小さいものへの愛に、そして小さいものの美への愛に、と意味が移り変わり、さらに室町時代には、美そのものを表すようになった)」という語源の説明があり、「①愛らしい。かわいい。いとしい。ー以下略ー、 ② ㋐形・色・声などが快く、このましい。きれいである。ー中略ー ㋑行動や心がけが立派で、心をうつ。ー以下略ー ③いさぎよい。さっぱりして余計なものがない。ー以下略ー」とあります。
語源的な解説が多いので、さらに大辞泉で「美しい」をみると以下のようになります。
「1 色・形・音などの調和がとれていて快く感じられるさま。人の心や態度の好ましく理想的であるさまにもいう。㋐きれいだ。あでやかだ。うるわしい。「若く―・い女性」「琴の音が―・く響く」 ㋑きちんとして感じがよい。「―・い町並み」「―・い文章」 ㋒清らかでまじりけがない。好ましい。「―・い友情」。2 妻子など、肉親をいとしく思うさま。また、小さなものを可憐に思うさま。かわいい。いとしい。愛すべきである。ー以下略ー。 3 りっぱである。見事だ。ー以下略ー。 4 (連用形を副詞的に用いる)きれいさっぱりとしている。ー以下略ー。」とあります。
辞書にある概念を少し深堀りしてみます。
まずは広辞苑の語源となった概念について考えます。
②(ア)の「形・色・声などが快く、このましい。きれいである。」とあります。形・ 色・声が快くこのましい。とはデザインの求める基本的な要件です。「きれいである」については「きれいな花」という用例にあるように外観的な鮮やかさの意が強く、「きれいに食べる」などの様に外観的な意味に限定的です。 (イ)にある「行動や心がけが立派で、心をうつ」という人の行動についての価値観についての概念です。③「いさぎよい。さっぱりして余計なものがない。」と情報が整理された状態を指しています。
これらのように、製品の洗練度として求められる概念としての「美しい」は外観的な意味が強く「外観が混濁していない」ことで、対象の要素が「情報がきちんと整理され調和を保ち配置されている」ことを内包する概念になります。
美しいデザイン(洗練されたデザイン)とは
「美」の概念からすると先に記した主たるデザイン要素(フォルム・カラー・質感)が「外観が混濁していない」清潔で混じりけのない状態に浄化・洗練されているかを評価する必要があります。
そのデザイン要素を統一し結合させることがデザインですから、デザインの美しさの評価に必要な判断規準は、デザイン原理である「バランスBalance・プロポーションProportion・リズムRythm・エンファシスEmphasis・ハーモニHarmony」(詳しくはこちら)が適切に使われて「デザイン要素として情報がきちんと整理され調和を保ち配置されている」ことが実現できているかとなります。
デザイン要素の浄化・洗練やデザイン原理の適切な使い方については別途詳述していきますが、デザインが一定水準以上にの洗練されているかの評価に用いる判断規準は、デザイン要素の純度と適切かつ適度なデザイン原理の適用方法に依拠しますので、これらを「美しい」を評価する規準としていきます。
ユーザが知り得ない製品のあらゆる面にも気の利いた配慮とは
ここでは開発する製品が、企図した製品コンセプトに相応しいデザイン上の配慮が成されているかを評価します。デザイン上の配慮とはデザインが製品に与える影響を考えて実施されているかを指しています。そのため本項では先述した洗練に内包する概念として「理を使いこなしていること」「気が利いていること」を確認するために「デザインが製品に与える影響の是非」について評価する判断規準を考えます。
ユーザーが製品を手に入れた時点で気がつかない些末と思われる部分にも、デザインが良い影響のみを与えていることが理想です。例えばデザインポイントを目立たせたいという思いが強くなり過ぎ、素材を極限まで細くしたり薄くして強度を下げてしまったり、大きくし過ぎることでユーザビリティの邪魔をする。一部分のパーツに、カラーを極端に高彩度にする、または質感を上げることに注力し、耐候性の悪い素材をつかい耐久性を損なってしまうなど。製品に思わぬ弱点を生み出してしまうことがあります。このようにデザイン起点で製品にネガティブな影響を起こしてしまうことがないように評価していきます。
また製品寿命が尽きた場合の廃棄についても、デザインを起点として問題点を発生させていないか確認していきます。
洗練されたデザインとは
以上より、製品の洗練度では下記の評価を行います。
- 美しく、かつ、製品の要素がきちんと整理され調和を保ち配置され混濁していないこと。
- ユーザが知り得ない製品のあらゆる面にも気の利いた配慮があること。
洗練度評価で配慮すべきポイント
- ライフサイクルの統一ができているか
- 初期品質ではわからない問題をデザインが生み出していないか
- ユーザーに品質を委ねる部分の確認
ライフサイクルの統一ができているか
製品の様々な使用を想定して、どこか極端に品質上の弱点となってしまう影響が、デザインを起因として発生していないかを評価します。
例えば2つ開きの製品をデザインする場合、可動部分のヒンジ部分が極端に弱く、他の内部機構や表示・インターフェースの部分が全く傷んでいないのにヒンジだけが壊れて使い物にならなくなる製品などがダメな例です。すべてのパーツで極端に劣化の早いものが隠れていないかを評価していきます。この例ではヒンジの部分をもっとサイズを大きく強くするか、強い材質へ変えるなど、デザイン変更で回避できるのであれば再検討していきます。
同様に全てのパーツで品質劣化が顕在化する時期が揃っているかを判断します。もし一部パーツが機能や実態概念などにより、劣化が早い素材を使わざるを得ない場合はメンテナンスを必要とする製品となることを宣言し、製品デザインにはメンテナンスが出来る形態を与え、メンテナンスできるビジネススキームの体制を整備していく必要があります。例えば弾性を持った高分子材(エラストマー)で作られた製品は、一般的に摩耗や紫外線や温度変化に弱いですが、振動や静音のためにゴム弾性が必要なパッキンやタイヤ、駆動ベルトなどは使わざるを得ない材料であることが多く、メンテナンス対象となることが多い部品です。さらにメンテナンス対象とする場合でも社会通念に照らした耐久性が必要で、継続的にパーツを供給できるビジネス体制のデザインも必要です。
初期品質ではわからない問題をデザインで生み出していないか
ユーザは新しい製品を検討する際、今までに使ったことのある同一カテゴリーの製品や近似している製品と比べて、その製品がどの程度の耐久性を持っているかを推定します。これらはユーザーが製品を手に入れた時点で認知できない品質上の問題点を含んでいて、あらゆる経時、耐候、耐久の問題に当てはまりますから、自社の他製品やコンペチタと比較してデザインを起点とした影響で問題点を発生させていないか確認していきます。
ユーザーが製品を手に入れた時点で認知できない品質上の問題点
耐久性
機械的強度、繰り返し使用時の劣化、耐水性、染色堅牢度、耐摩耗性、など
耐衝撃性
耐落下衝撃性、想定外使用による破壊や損傷など
耐候性(経時的変化)
温湿度環境や紫外線など、材料の経時劣化による製品の変化など
ユーザーに品質を委ねる部分の確認
ノックダウンと分解性
ノックダウンとは組み立て式の家具のように、製品の最終組立をユーザに委ねることを指します。この場合は組み立て方法や組み立てが間違いなく行われたか確認する方法をユーザに提示する必要があり、ユーザーのヒューマンエラーを含めて間違いを起きづらくする配慮が求められます。また組み立てられる製品は通常は分解出来ると考えられますから、繰り返し組み立てを許容できるのかを明示することが必要です。分解と再組み立てを許す場合、安全性に気を配ることが求められます。
廃棄時の注意点
製品を廃棄する際に法を遵守することはもちろんですが、廃棄の際にケガを誘発したり危険を発生させないか。またリユースやリサイクルを行う際のサポートがデザイン起点できているかを確認します。
また製品は通常の市販工具で分解が出来る場合は、ユーザが分解しても安全は確保出来るよう確認します。アラートが必要であれば製品に記すように働きかけましょう。
以上が(C)デザインクオリティ評価(製品の作り込み評価)の判断規準についての説明です。デザイン評価の詳述は別途行いたいと思います。
ではまた!
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