製品ポジショニング
製品は以下の6つの概念から成り立っています。
1)実体概念、2)機能概念、3)属性概念、4)価格概念、5)形態概念、6)抽象概念
この内 1)から 4)までの概念は主に製品のポジショニングを表し、5)抽象概念はユーザに直接的なベネフィット以外にも満足感を与える概念であり、このうちデザインとして製品の表に出てきた概念が 5)形態概念となり、形態概念がその形で表す意味により6)抽象概念を補強するという相関関係になります。
これらの概念は三つの視点があります。各々にユーザという使う立場から見た視点、製品からの視点、さらに製品とユーザが存在する社会(環境)からの視点です。
まずは1)実体概念 ~ 4)価格概念を使ってコンペチタとの相対的な立ち位置(ポジショニング)を検討します。
その後概念にレバレッジを掛けるために、5)形態概念と6)抽象概念により、イメージを膨らませ更にポジショニングを調整していきます。
製品コンセプトにおけるポジショニング指定の重要性
ポジショニングは製品企画の根幹を作っています。ここで他者のコンペチタ群と異なる概念を具現化するポジショニングを得ることができれば、その製品は非常に強いコンセプトを持ちます。例えばコンペチタよりもサイズが大幅に小さい・軽い。全く新しい付加機能を持っている。カテゴリが異なる形態をしている。非常に安価。といった概念です。
ですから製品コンセプトを概念に分解する際には些細なポイントでも良いので、既存のコンペチタと違うポジショニングに設定できるところを探ることも製品コンセプトを強くするための大切なポイントです。
このようにコンペチタとポジショニングを大きく変更できるのは製品のライフサイクルが黎明期にあるうちで、成長期に淘汰されてデファクトスタンダードのポジションが決まったかのようになりますので、成長期を経て成熟期に入った製品では、視点を変えて改めてポジショニングを考える必要があります。
以降では各概念の中でポイントを考えていきますが、以下に記す概念は例として一部を記すだけですから、実際のプロジェクトでは製品コンセプトに合わせて汎ゆる視点からポジショニングを検討し、製品コンセプトを強くするポイントとなる概念を見つけていきましょう。
1)実体概念
製品の物理的にどのようなモノであるかを表す概念です。以下にユーザ視点、製品の視点、社会(環境)視点で順に記します。
・ユーザ視点:ユーザ視点から、モノが持つ物理的因子をどのように認知するかといった概念です。重さの例では鉛筆は4g程度ですが、軽いシャープペンは6gぐらいです。相対的な大きさで比率が大きく1.5倍も重量は重いですが、大人のユーザ認知としてこのシャープペンシルは重いとはならず、どちらも軽い筆記具の範囲です。これなどは人間の筋力が筆記具の数グラムという重量に対して十分に強いため起きる認知で、同じテストを幼児で行えば結果は変わってきます。
・製品の視点:製品の視点から、製品が持つべき物理的な必然性について検討します。大きさと重さ、また素材などでコンペチタと差別化できるかを検討します。製品が機械であれば属性と機能を満足するために必要な実体として物理量を設定する行為で、製品設計のコアな部分で、基本的な性能なども決まります。
世界一小さい。世界一軽い。といったポジショニングは非常に強いコンセプトになります。また体積が大きくてもコンペチタよりも十分に薄いなど製品の一部の実体概念だけを大幅に変更できればコンセプトとして使えることがあります。また何で出来ているのかという素材の特長を活かした企画も考えられます。主な素材として、鉄、アルミ・チタンなどの金属、ガラス、プラスティック、木材、紙、布など、様々な物理特性を製品コンセプトに活かせます。
これら製品が何で形成されているかという実体は、結果として機能や属性、価格、形態にも関わってくる製品の根本的な条件になりますから、ここで重量は世界最軽量でなくても、単位体積当たりの重量が最軽量のように、様々な概念の組み合わせで特徴のある実体概念が作り出せないのかを吟味します。
・社会(環境)視点:製品を作る時、使っている時、使い終わった後、製品を処分する際の社会への影響度合いや環境への負荷のかけ方についての概念です。
2)機能概念
・ユーザ視点:ユーザーが得るベネフィットのうち何ができるのかという製品の存在理由ともいえる概念です。「何ができるか」ということと併せて「何が出来ないか」も検討し、機能で差別化できることはないかを検討します。
この機能概念はどうやって使うのか?というユーザビリティの問題と、操作するユーザとの接点になるインターフェースをどの様に構築していくかという概念も大切になります。
・製品の視点:主要コンポーネントの並び方が変えることで製品の性能を変え、機能にも影響を与えることができます。例えばクルマのエンジンという最も重いコンポーネントをどこに配置するかでクルマの機能は大きく変わります。例えばフロントエンジン ✕ フロントドライブ(FF)であればスペース効率が最も良くなり同一サイズで積載量は大きくできますが、前輪への荷重が過多になり運動性能は悪くなりスポーツカーには不向きです。反対にミッドシップエンジン✕リアドライブは前輪と後輪の重量バランスが最適化できるのでF1やスポーツカーで採用されますがパッケージの効率は悪く積載量がは小さくなります。
このように機能はその性能との組み合わせでも概念を変える必要があり検討の際には考慮することが大切です。
・社会(環境)視点:機能が社会に与えるインパクトです。例えば自動車は人やモノを楽に移動させることが主な機能ですが、視点を変えると走る凶器にもなります。機能の負の側面にも注意を払う必要があります。
3)属性概念
属性とはカテゴリで、どんなグループに属するかを検討します。この属性概念は他の5つの概念との関係性に応じて決まります。
・ユーザ視点:カテゴリのデファクトスタンダートとなっている製品群が存在する場合、それらに近い実体概念と機能概念の組み合わせに設定すれば、ユーザにはその製品がどんな機能を持ちどの様に使う製品か説明不要ですが、新しさをユーザに与えることは出来ません。
しかしデファクトスタンダードをあまりにも逸脱した属性概念に設定すると、ユーザは何をする製品でどう使うのかが分からなくなってしまうという問題が発生します。これはレーモンドローウィーのMAYA理論が分かりやすいと思いますのでくわしくはこちらをご覧ください。
また想定しているユーザのクラスターによっても属性概念は大きく変わります。例えば高齢者向けの製品と幼児向けの製品が異なるとか、国や地域によって属性概念が変わるということもあります。
・製品の視点:どのようなカテゴリに属するかというポイントを細かく検討します。
製品は機能概念により期待されるベネフィットが決まり、実体概念により非対象物が決まります。この機能概念と実体概念の相互関係からモノのカテゴリを表す属性概念は決まりますから、各々の概念が動くと属性概念に変化を与えます。
すでに製品として様々な機能のモノで世界は溢れていますが、まだ作られていない機能はもちろん存在します。
また社会のデファクトとなっている既成概念から、素材やサイズなのど実体概念を技術革新で変革できれば大きなイノベーションになりますし、少しの差異でも効果的にこの属性概念をズラすことを意識して企画すれば、新たな概念を生み出すことが可能ですから、製品コンセプトを変えるために非常に有効です。
・社会(環境)視点:属性概念も同じ機能の製品同士で産業用と民生用にカテゴリが異なる製品もあります。産業用では当たり前だった実体概念や機能概念を民生用にすることで、全く新しい製品コンセプトを生み出したり、逆に民生用を産業用に転用することも出来ます。
4)価格概念
・製品の視点:価格を変更させて差別化できるかです。モノ視点からはコンペチタと比較して同等以上のクオリティの製品を廉価で提供する、高いコストパフォーマンスといった概念を実現することで、コンペチタのシェアを奪うことも可能です。
・ユーザ視点:反対にユーザが気にしている主要な実体概念や機能概念にコストをかけて製品の品質を格上にすることで、ユーザーが価格が高い方が良いものに感じるという心理を活用して属性概念におけるブランドのポジションを上げることで、コンペチタとは違うポジションを作り出すことも有効です。
・社会(環境)視点:ここのコストと利益の関係で、流通の利益の大きい製品は、流通企業にとって売りたい商品になるのに対して、流通の利幅が少ない製品は流通企業が扱いたくない商品となります。
5)形態概念
・ユーザ視点:形態概念とはユーザがデザイン(形態・色・質感)から何を感じ、認知したかを概念化することです。これは個人毎に異なりますが、同じクラスタ内であれば同じ傾向となりますので、その傾向を概念として用います。
作られた外観(アピアランス)からユーザが様々なパワーである印象を生み出し、ユーザが得た形態概念が実体・機能・属性・価格・抽象の各概念を補強できればレバレッジが掛かったことになりますし、各概念のイメージを補強できず、目減りするという負のフィードバックが掛かることもあります。
・製品の視点:製品コンセプトの突出させたい概念を如何に製品のデザインに盛り込めるかという概念です。ここに記した 実体・機能・属性・価格・抽象の各概念を総合して外見(アピアランス)で見える様に可視化するためにデザイン要素「形(Form)、色(Color)、質感(Material)」とデザイン原理「バランス(Balance)・プロポーション(Proportion)・リズム(Rythm)・エンファシス(Emphasis)・ハーモニ(Harmony)」の五つ(くわしくはこちら)について考えていきます。
・社会(環境)視点:ここで考え得る形態概念の検討は、デザインが社会や環境に与える影響です。社会に対しどのようなメッセージを発信できるか、環境に与える負荷がどの程度かを検討します。特に土木事業や建設・建築のように景観に直接関わる製品や、輸送機械などが社会へ与える影響は甚大です。
6)抽象概念
・ユーザ視点:ユーザが得る精神的なベネフィット、つまりこの製品を得ることで自身の生活がどの様に変わるのか、またどの様に変わって見せたいのか、製品の持つイメージを表す観念層で認知する概念です。
機能が欲しい(必要性・必然性)という 1)属性や 2)機能概念、からの認知や、さらにもっと小さく軽いものが欲しいなどといった 3)実体概念やからの認知に対して、 通常とは異なるバイアスが4)価格概念に働き、高価でも欲しいといった誰にも起き得る概念で、この後に説明する6)形態概念にも引っ張られる概念で、ユーザから見ると理屈ではなく「その製品に惹かれる」という認知を生み出す概念です。
・製品の視点:製品から刺激を受けてユーザが認知する様々な感覚の概念、この抽象的な概念を製品側から自社の製品群にイメージとして付加価値を植え付けることがブランド化であり、如何にブランディングするかという戦略として活用します。
さらにこの抽象概念では目に見えないイメージを表す概念も包含して、記号性が欲しい、歴史やストーリーが欲しいといった、イメージを借景するブランド価値を含みます。
ここでイメージを高めるために素材のグレードを必要以上に上げてオーバースペックにすることをコンセプトとしたり、希少性の高い貴石や貴金属を使ったり、逆に安価な素材にしたりすることをコンセプトとしたり、ユーザが感じる評価性・情緒性・バランス感覚・怜悧感・親近感・時間的感覚など多種多様な概念が入ります。
・社会(環境)視点:イメージ作りのためのオーバースペックや、希少性の高い素材を供給の持続性を無視して使うことが過度になり社会問題化しています。貴石の枯渇、絶滅が危惧される動植物、コストを下げるために非人道的な労働を課すことや、環境破壊を黙認するなど課題は山積ですから注意が必要です。
また公序良俗に反することはいけませんが形態の受容性は国や地域で異なります。既成観念としてタブー視されていることでも、社会に対してメッセージとして意義のあることであればデザインの持つパワーを使うことができます。
以上1)から6)の概念が製品のポジショニングを表します。
ポジショニングを指定する
以上のように実体・機能・属性・価格・抽象・形態の6概念の中でも、ポジショニングの概念は実体・機能・属性・価格の4概念を少しズラすだけで突出した概念を作り製品コンセプトとすることが出来ます。機能の進化が著しくコストダウンも実行できる製品の黎明期にはこれら4概念を見直し、製品コンセプトの進化を図ることが企画の主流となり、より小さく、軽くといった軽薄短小に、より高機能に、より多機能に、という製品コンセプトが強力に機能し日本のお家芸と言われました。さらに産業用のマシンを民生用へ転用を図ったり、より安くという価格概念の変化は市場を大きくし、他にない特徴を明確に押し出せました。
現在は製品サイズを少し変えて実体概念を変えたり、機能の見せ方を変えて機能概念を変える。またはコストパフォーマンスという価格概念に少し触るというだけでは強い製品コンセプトを生み出すことはできません。
しかしポジショニングの変化から生み出されたコンセプトは万人に共通し、グローバルに通用するわかり易いコンセプトとなる可能性が高いため、様々な各概念を単独ではなく、相互作用も有効に使うことで、新たに強いポジショニングが可能かを考えます。
その上で製品コンセプトにレバレッジを掛けることを考慮しながら形態概念と抽象概念をうまく操作して、さらなる強いコンセプトの製品を生み出します。
• 以上、製品コンセプトを分解して再解釈の方法について記しました。
以下に日本の家電が強かったのはこのポジショニングを変更で作った商品例を記します。
ノートPCやデジカメ:性能を上げながら、とことん小さく軽くした。(機能概念 ✕ 実態概念)
ウォークマン:機能を減らすことで小型化して使用シーンを変えた(機能概念 ✕ 実体概念)
マスキングテープ:塗装のマスキングテープからテープに印刷して文具を飾るというカテゴリーを生んだ(属性概念 ✕ 機能概念)
などです。
ではまた!(2024.1更新しました)
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